委託・指定管理図書館の管理責任者を安い労働力に頼る傲慢ビジネス-図書館流通センター(TRC),紀伊國屋書店,丸善雄松堂の司書求人事例

 公共図書館や大学図書館と民間業者との間で、委託や指定管理者の契約が結ばれると、受託した業者は、図書館運営を任されることになり、社員スタッフが配属される。スタッフ全員が契約社員やパート・アルバイトなどの非正規雇用である場合が圧倒的に多く、リーダーといった現場の管理責任者ですら、1年契約更新の雇用形態が当たり前だったりする。
 現在、民間業者の受託状況を俯瞰すると、図書館流通センター(TRC)、紀伊國屋書店、丸善雄松堂が御三家となっており、他社がそれを追随する形になっている。民間企業だから、各社の経営・財務状況、人事制度、得意分野、過去の実績は様々であるが、給料などの待遇や福利厚生は似たり寄ったりである。
 今回は、こうした図書館業務の受託ビジネスと現場リーダーと呼ばれる、受託図書館での現場管理責任者の境遇について書いてみる。

1. 現場責任者の待遇の実態
 下記は、図書館流通センター(TRC)、紀伊國屋書店、丸善雄松堂のHPで募集されている、現場管理責任者(リーダー)求人の事例を簡単にまとめてみた。※各社HPの採用ページより一部抜粋 [2016.6.6現在]

【図書館流通センター(TRC)】
○首都圏内弊社受託館責任者
・管理職やチームリーダー経験者で、豊富な図書館勤務経験と高度な図書館サービススキルをお持ちの方。
・仕事内容は図書館業務全般ですが、スタッフマネジメントなども含めた責任者業務をお任せします。
・面談による合意の上、2017年3月31日までの期間を原則として更新可。以後、同様に1年間を基本とした契約で更新可。
・月給: 司書資格あり/220000円~、司書資格なし/215000円~。
・採用日から2ヶ月間の給与は、司書資格あり/時給1374円、司書資格なし/時給1344円。

【紀伊國屋書店】
○公共図書館の管理者大募集。都内にある公共図書館での管理者業務をお願いします。業務責任者、リーダーなどマネジメントできる方、経験を活かして、ステップアップやキャリアアップしたい方、あなたの目指す図書館を一緒に作りませんか!
・月給制社員への登用あり
・1年契約・更新可
・時給1100円から(経験役割で応相談)
・社会保険完備、交通費実費支給(上限1000円/日)

【丸善雄松堂】
○公共図書館マネジメントスタッフ、責任者。図書館業務全般、庶務業務、スタッフマネジメント等。
※試用期間後、契約社員昇格試験があります。
・月給18万円(試用期間中は時給1050円)
・交通費支給(上限20000円/月)

まあ、責任者の割には、非常にテンション、モチベーションが下がるショボイ内容で、賞与(ボーナス)、退職金の記載すらない。こんな求人に応募するのはNGだと思う。

2. 現場責任者の業務内容
実際に、どこの業者であれ、リーダーである現場責任者の業務内容は、ほぼ同じである。具体的には、次のようなものである。

・全ての業務の把握
・スタッフの勤怠管理、ローテーション作成、業務指示、指導・教育、相談受付
・欠員時の代理出勤
・委託元図書館への連絡、調整、折衝
・所属会社の営業担当者への業務報告、連絡
・定例会議への出席と業務報告
・報告書、各種資料作成
・スタッフミーティングの企画と進行
・現状の問題点の確認と改善
・会計処理
・緊急事項やトラブルへの対応
・仕様書以外の発生業務への対応と連絡
・新たなサービス向上のための考案や企画立案
・自己啓発のための勉強

3. 待ち受ける現実
 各業者や受託図書館の契約内容、事情にもよるが、上記業務の半分以上は、やると思った方がよい。もはや、自治体や国立大学の正職員と同レベルの業務内容だ。これを、単年契約の非正規雇用の立場で、人、物、金、情報の管理を統括し責任を負うだから、たまったものではない。業務上のトラブルも起きるだろうし、仕様書にない事も発生するだろう。スタッフのレベルも様々であり、一から指導しなくてはならない負担が生じることもある。また、短期間でスタッフの出入りが激しい現場もある。業務内容に全く見合っていない待遇なのだ。
 これを、時給だの、20万前後の給料でやらされるのだから、労働に対する意欲など高まらない。雇用形態や人件費を極限まで下げたステージからスタートさせ、丸善のように契約社員になるのですら昇格試験があるとは、バカげた話である。給料から社会保険料などが引かれるわけだから、手取りは15万~20万辺りだろう。生活保護給付の水準に近い金額で責任者の仕事をさせられ、単年契約で常に解雇の不安もつきまとう。まさに、コスパが悪い求人そのものである。
 キャリアを積み上げても、正社員へのハードルは高く、「正社員登用あり」と掲げていても、それは会社の釣りである。大多数は、契約社員止まりが常である。昇給も20万円台前半までが関の山。ボーナスも退職金もない。

4. 利益率が低く、市場規模と将来性が厳しい業界
 問題の根は深い所にある。こうした、責任者ですら安いギャラで雇用しなければならないのは、書店や取次、図書館関連製品販売を商いとする市場の脆弱さと利益の薄さに根源がある。ビジネスとしての利益が低いため、会社の経営基盤も脆弱で小企業、零細企業ばかりだ。将来的な市場も先細りで、新たに発掘できる市場の余地がない。
 図書館の仕事を受託するのは、他に開拓できるビジネスがなく、これまでの付き合いを脈として参入しているだけの理由に過ぎない。とは言っても、図書館業務受託のビジネスも、落札額や指定管理料の限定された範囲でしか利益を出せず、プラスαとしての入館料を取ることができないわけだから、真のビジネスとは言えない。稼げない市場で競合他社と仕事を奪い合い、不完全なノウハウと人材不足の状態で受託し、最低ラインギリギリの人件費で最大の効果を出そうとする。これが現実である。
 飲食、流通、アパレル業界なども人材不足が深刻だが、人材確保のために時給アップや正社員化が進みつつある。図書館業界は、そうした動きは皆無である。そういう努力すらできない。

5. 責任者の待遇改善は至極当然。それができなければ、足を洗ってビジネスから撤退するべき。
 このように、生活基盤が成り立たないような給料で責任を押し付けられる仕事をすると、精神的にも、経済的にも、いつか限界が生じるだろう。委託や指定管理は1~3年程度の契約が多く、更新ができない場合、次の仕事を確保できる保証はないし、会社が不測の事態に対処してくれるとは限らない。まさに、クビの皮一枚でつながっている。
 どこの民間業者も、人材を採用するだけで、テキトーで薄っぺらな内容の研修か、それすらせずに現場へ送り込む。そして、後はお任せしますよと放置しておくだけの、人を右から左へ流すだけで利益を得ている。そうなると、現場の責任者は、全てをコントロールしなくてはならない。これは、非常に酷な事だ。一刻も早い待遇改善が求められるし、それが無理なら、もう見向きもされないだろう。

この記事へのコメント

  • 田島@㈱トッカータ

    初めてコメントします。田島と申します。
    業務委託関連を検索していて貴サイトを読みました。
    調査内容がわかりやすく整理されていて感心しました。大変参考になります。 
    現在の我が国には指針となる団体、機関が無い事も一因とも考えますが、業界への憂いもあり専門会社として尽力せねばとあらためて思いました。
    日販も遂に業界撤退ですし。
    IAML日本支部のニューズレターNo.57
    に加藤信哉様:国際教養大学図書館長の寄稿があります。参考になればと。
    2016年06月14日 14:23

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