先日、「目録屋の戯言」というブログを運営されている管理人様が書かれた、大学図書館の目録作成業務に関する、「ローカルだけの書誌登録」の記事を読み、経験上、かなり思い当たる節がありました。ざっと言うと、総合目録データベースである、NACSIS-CATの利用規定に反した、一部の図書館があるという内容です。今回、その暗黙の了解の実態について書いてみることにしました。専門的な実務の話になってしまいますが、ご了承ください。
現在、大学図書館(一部の公立図書館や専門図書館も)の目録業務は、国立情報学研究所(以下、NIIと表記)が管理する、NACSIS-CATデータベースシステムを利用しています。NACSIS-CATは、大学図書館などが共同して、積極的に書誌作成や所蔵登録をオンラインを通じて行い、総合目録データベースを構築していく仕組みです。つまり、みんなで協力して作り上げていく目録データべースです。参加には、インフラなどの一定の条件を満たし、審査に通ることで承認されます。
基本的な作業手順は、登録しようとする図書や雑誌のタイトル、責任者、版、出版者、出版年、形態などを基に、NACSIS-CATを検索して、該当資料の書誌レコードが存在するか確認します。すでにあれば(業界ではヒットと言う)、所蔵データを登録し、更に書誌データをローカルシステムにダウンロードして、自館のローカルデータ(OPAC)として活用するのが一般的です。そうすることで、ゼロから書誌を作成する手間が省けます。自館の所蔵データを登録する見返りに、書誌データを流用させてもらうような感じです。
もし、NACSIS-CATに該当資料の書誌がヒットしない場合は、国会図書館のJAPAN-MARC、図書館流通センターのTRC-MARC、米国議会図書館US-MARCなど、他機関や民間のMARCデータを流用し、NACSISの目録規則に修正して書誌を作成します。よって、新規でも流用でも、ゼロから書誌を作成するには、ある程度の知識と経験を必要とします。
そうしたこともあってか、図書館によって活動の温度差があるのが実態です。積極的に書誌・所蔵データを新規作成・登録する参加館もあれば、ヒットする書誌データだけダウンロードし、新規作成や所蔵登録を全くしない図書館も多くあります。これは、先のブログでも書かれている通りです。
▼NIIはHP上で、年間の実績を公開しています。
ざっと見、私立大学図書館、専門図書館で低迷しています。もちろん、各館の蔵書数や人員の規模は違うので、一概に比較はできませんが、年間を通してゼロとは、いくら何でもありえないでしょう。
特に悪質なケースは、新規書誌を作成しないで、他の図書館が作成してくれるまで粘って待ち続けることです。どこかの図書館が作成してくれたタイミングで、書誌をダウンロードし所蔵登録する。ひどい場合だと、所蔵登録すらせず、書誌だけダウンロードしておしまいのケースもあります。
これは、ルール違反であり、自分たちは楽して他館に負担を強いている事になります。完全な自己都合主義であります。以前、ある私立大学図書館で非常勤として勤務していた頃、こうした事例を目の当たりにしました。また、知人などからも、こうした実態が、今現在ある話を複数聞いています。おそらく、多数の図書館、とりわけ、私立大学図書館や専門図書館が、こうした怠慢とルール違反の傾向があることは確かだと思います。
こうしたことがある背景として、次のようなことがあります。
・司書の専任職員がいないので、NACSIS-CATの意味や運用規則を理解できていない。
・業者に丸投げ委託しているので、把握していない。
・新規書誌を作成した作成館は、該当書誌の管理的な役割を担う。修正の必要が生じた場合など、他館からの依頼や連絡の代表窓口となるため、これを煩わしいと思い避けてしまう。
・悪いとわかっていながらも(なかには、それすら思っていない)、人材不足だの、業務多忙だのと、色々意味のない言い訳をして逃れている。
また、図書館側が、きちんとルールに則った指示や仕様を出しているにも関わらず、委託の受託業者側が守らないケースもあります。知識と経験がある人材の確保ができなかったり、不足している業者などです。面倒な新規書誌作成を極力避け、ヒット書誌ばかりを狙って稼ぐ業者もあります。納期ギリギリまで、新規書誌が作成されるのを待ち続け、やむ負えない場合に限り新規作成します。
NACSIS-CATの財源は税金です。莫大な費用がかかっています。参加契約をしているくせに、全く協力もせず、都合良くチャッカリ利用している図書館が存在することは嘆かわしいことです。真面目に協力している図書館だけがバカを見ることになっているため、正常に機能しているとは言えません。今後は、NIIが注意喚起しても改善が見込めないなら、実績が積み上がらない図書館を退場させることも必要でしょう。
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