東京都立高校の学校図書館は、ビル/マンション管理・警備・清掃業者が運営する危機的状況

これまで、東京都立高校の学校図書館運営委託に関する受託業者の実態について記事を書いたところ、多くの反響がありました。落札し受託した業者が、ビルやマンションの管理、警備、清掃、消毒業務等、図書館と全く無縁の業者ばかりで、多くの方が実情に驚いたのだと思います。こうしたことは、都立高校の学校図書館特有の委託事情だと思いますが、業者の能力や実績ではなく入札金額主体で決めると、こうしたことが起こるわけです。

今回は、2017年度の競争入札の結果を基に記事にしてみました。

今回は61校の都立高校が委託化されています。10校程度を1グループにまとめ受託する方法で競争入札が行われます。電子入札で行い、一番安い価格で入札した業者が落札する「希望制指名競争入札」で行われます。入札金額が同額の場合は、クジ引きで決まります。東京都入札情報サービスで閲覧した情報を基に、入札へ参加した会社名・業種、採用・落選・辞退の結果を明記します。株式会社表記は省略。契約期間は1年です。<2017年4月1日現在>

◆大崎高校、外11校
[○採用] 秀光 (ビル管理)
[×落選] ケーデーシー (アウトソーシング)
[×落選] ナカバヤシ (製本業)
[×落選] バックスグループ (派遣)
[×落選] サービスエース (ビル管理)
[×落選] エイト (不動産,土木,造園)
[×落選] 有隣堂 (書店)

◆町田高校、外11校
[○採用] 光管財 (建物管理、造園、害虫駆除)
[×落選] バックスグループ (派遣)
[×落選] ケーデーシー (アウトソーシング)
[×落選] エイト (不動産,土木,造園)
[×落選] ナカバヤシ (製本業)

◆都立一橋高校、外11校
[○採用] エースシステム (建物管理)
[×落選] エイト (不動産,土木,造園)
[×落選] サービスエース (ビル管理)
[△辞退] マンパワーグループ (派遣)

◆都立江北高校、外10校
[○採用] エースシステム (建物管理,公園緑化維持管理,消毒)
[×落選] ケーデーシー (アウトソーシング)
[×落選] クリーン工房 (ビル管理)
[△辞退] マンパワーグループ (派遣)

◆戸山高校、外10校
[○採用] 秀光 (ビル管理)
[×落選] エイト (不動産,土木,造園)
[×落選] サービスエース (ビル管理)
[△辞退] マンパワーグループ (派遣)

◆石神井高校、外10校
[○採用] 秀光 (ビル管理)
[×落選] クリーン工房 (ビル管理)
[△辞退] マンパワーグループ (派遣)
[△辞退] ナカバヤシ (製本業)

◆富士森高校、外10校
[○採用] 光管財 (建物管理、造園、害虫駆除)
[×落選] バックスグループ (派遣)
[×落選] エイト (不動産,土木,造園)
[×落選] サービスエース (ビル・マンション管理)

◆片倉高校、外10校
[○採用] 光管財 (ビル管理、造園、害虫駆除)
[×落選] バックスグループ (派遣)
[×落選] クリーン工房 (ビル管理)
[△辞退] ナカバヤシ (製本,事務用品販売)

以上より、受託採用された業者は以下の3社です。

○(株)エースシステム
建物管理,公園緑化維持管理,消毒
東京都足立区栗原4-7-15

○(株)秀光
建物管理
東京都葛飾区堀切5-7-1-409

○光管財(株)
建物管理、造園、害虫駆除
東京都足立区栗原3-10-19-105

採用された3社は、全てビルやマンションなどの建物管理を中心に事業展開する会社です。建物管理とは、保守点検、警備、清掃、消毒などの業務を請け負うことです。これ以外にも、公園などの造園や緑地化、イベント管理などにも手を広げ、さらに図書館等の公共施設の管理へ派生している流れとなっています。いずれも、地域密着型の地元中小零細企業です。

落選や辞退した業者も同様の業種ばかりが目立ち、書店、図書館製品販売、図書館システム開発などの会社は見当たりません(ナカバヤシだけが参加しているが)。恐らく、元々利益が出ないか、あまりにも低価格で入札するため、敬遠しているのかもしれません。

そして、こんな180度も異業種の会社が、公教育の場である都立高校図書室の運営などできるのだろうか?どういう方法でノウハウを獲得してきたのだろうか?

能力や実績がない業者にとって、価格だけの単純な競争入札で決まる委託案件は美味しいというのが本音でしょう。経験者を募集して採用し、後は任せてしまう事が理想的な運営ノウハウなのです。ノウハウもないくせに安易に参入し、現場丸投げで稼ぐ業者の手法には、根本的な危うさが感じられます。

酷い場合だと、スタッフ全員が図書館業務未経験ということさえあります。採用の段階で経験者と未経験者のバランスを整えることができず、早く人員を確保するために応募の先着順で即採用するケースもあります。残念ですが、底辺業者になればなるほど、こうした事が裏で横行しているのが現実です。

図書館業務と無縁な業者の場合、現場スタッフだけが図書館業務や運営ノウハウを持っていて、本社の事務や営業社員が業務を把握していなかったり、理解できない事があります。これは非常に危険です。多少のトラブルや仕様外の対応の発生といったことは必ず起こりますから、その際に最終責任者である本社の社員が無知だったり、対応できないとなると、現場の混乱、ひいては契約そのものに影響し、自治体側も厳しい対応を取らざるを得なくなります。年度途中でそうしたことが起これば厄介です。年度途中でトラブルを起こし、ペナルティーを受けた業者も知っています。

これなら、非正規であっても直接雇用の学校司書を雇った方がまだマシです。それ位の財政的余裕はあるはずです。

応募する側も企業情報の事前収集には力を入れて下さい。現在の図書館界は、こうした事例がいつどこでも起こりえるわけですから、会社本来の事業内容と図書館業務がミスマッチしている場合は要警戒です。マッチしていたって怪しいのですから。


【補足】
●東京都入札情報サービスの使い方

[PC版]
1. メニューの入札(見積)経過情報を選ぶ
2. 必須条件の「物品等」にチェックを入れる
右にある「営業種目の一覧表」をクリック
「+委託・その他」を選ぶ
「+135事務支援」⇒「08図書等整理業務」を選択
中央にある「選択>>」をクリックすると右枠に項目が表示される
下にある「選択」をクリック
3. 必須条件の「開札(見積)日別選択」で確認したい月にチェックを入れる
4. 一番下にある「検索」をクリック
5. 検索結果が表示されます

[モバイル版]
1. メニューの入札(見積)経過情報を選ぶ
2. 調達区分
「物品」を選択
3. 業種営業種目の選択
「委託・その他」を選択
「事務支援」を選択→決定
4. 開札(見積)日別選択
「全ての年月」を選択→決定
さらに絞り込む項目に
5. 取り扱い部署の選択
「財務局」と「教育庁」と「教育長(高等学校)」を選択
6. 検索
7. 検索結果が表示されます

※モバイル版は、業種営業種目を詳細に絞り込めないため、他業種の結果も反映され、検索結果が多くなります。PC版の利用をお奨めします。

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