当ブログでは、東京都立高校の学校図書館・民間委託運営に関する受託業者が、ビル管理、清掃など、図書館と全く無縁の業者ばかりであると、2016年と2017年に記事として書き、多くの反響があった。あれから3年経過したが、今一度、現状を確認しておきたいと思い、再び記事にしてみた。
都立高校の学校図書館の民間委託は、2011年度から順次進められ、2020年度で10年目となる。全校の3分の2程度が委託化されている。東京都財務局経理部が担当する、委託および入札は、委託対象全ての都立高校を同一年度で一括して行うわけではない。まず、3つの地域に分け、更に各地域の10校前後を複数グループに分ける。その複数グループを1年単位で分散して委託および入札するローテーションとなる。入札は電子入札で行われ、価格点+技術点で評定し、同点の場合はクジ引きで決める。一部を除き、契約期間は2年~3年の複数年となった。また、これまでは総価契約として委託料が一括して支払われていたが、業者の人員不足で開館できない不履行事態が相次ぎ、2017年度からは、開館日数に応じて支払われれる単価契約となってしまった。
まずは、2020年度と2019年度の落札結果を見てみたい。東京都入札情報サービスで閲覧した情報を基に、落札金額、入札参加会社名・業種、採用・落選・辞退の結果を明記してみた。
【2020年度・令和2年度】
入札経過 東京都財務局経理部
◆都立忍岡高等学校外15校
落札金額 104,703,244円
[○採用]ナカバヤシ(製本・アルバム等文具販売)
[×落選]エースシステム(ビル管理)
[×落選]リブネット(図書館サービス)
[×落選]秀光(ビル管理)
◆都立大崎高等学校外13校
落札金額 101,559,122円
[○採用]リブネット(図書館サービス)
[×落選]秀光(ビル管理)
[×落選]エースシステム(ビル管理)
[△辞退]ナカバヤシ(製本・アルバム等文具販売)
◆都立町田高等学校外11校
落札金額 104,706,308円
[○採用]光管財(ビル管理)
[×落選]リブネット(図書館サービス)
[△辞退]ナカバヤシ(製本・アルバム等文具販売)
【2019年度・令和元年度】
入札経過 東京都財務局経理部
◆都立一橋高等学校外8校
落札金額 67,884,210円
[○採用]エースシステム(ビル管理)
[×落選]ケーデーシー(アウトソーシング)
[△辞退]ナカバヤシ(製本・アルバム等文具販売)
◆都立練馬高等学校外8校
落札金額 64,309,140円
[○採用]秀光(ビル管理)
[×落選]ナカバヤシ(製本・アルバム等文具販売)
[×落選]ケーデーシー(アウトソーシング)
※秀光とナカバヤシが同点のため、くじ入札を行い秀光に決定。
◆都立富士森高等学校外12校
落札金額 88,151,760円
[○採用]光管財(ビル管理)
[△辞退]ナカバヤシ(製本・アルバム等文具販売)
◆都立雪谷高等学校外8校
落札金額 9,578,736円
[○採用]エースシステム(ビル管理)
[×落選]秀光(ビル管理)
[×落選]オーディーエー(スポーツ施設管理)
[△辞退]ナカバヤシ(製本・アルバム等文具販売)
現状、気づいたことなどを端的にまとめると以下の通りになる。
・相変わらず、ビル管理会社が落札し運営している案件が多い。
・以前よりも入札参加業者が減り、特定業者に限定されてきた。
・東京都の審査方法が価格点に加え技術点(ノウハウ、実績など)を加えた総合評価方式になった。
・複数年契約が基本となった。(一部、1年契約の件もある)
◆評価方法・契約期間
以前は、一番安い金額で入札していた業者が落札する判定方法だったが、技術点も追加され、運営ノウハウや実績などの審査が加わるようになった。これで、計画書などの書類を作成できない頭の悪い業者は撤退せざるを得なくなり、以前よりも参加業者が減少した。しかし、一般的な公共図書館の委託や指定管理の入札に比べると、まだまだ審査は緩いと思われる。また、これまで1年単位での契約だったものが、一部を除き、2~3年の複数年契約単位となった。
◆業者の特徴
図書館サービス業務を主体とする業者では、ナカバヤシ、リブネットしか参加していない。TRC、紀伊國屋書店、丸善などの老舗業者は、そもそも、この分野は視野に入れていない。ビジネスとして、旨味がないと判断しているはずだ。他は、学校図書館と無関係のビル管理業者である。特に光管財、秀光、エースシステムという業者が幅を利かせてきており、高い落札率を維持している。
また、ナカバヤシは製本やアルバム販売を生業としているが、図書館業界にも浸透している業者だ。近年は、学校図書館のノウハウや実績もないくせに、都立高校図書館の委託に参加してきている。だが、毎年入札に際して不自然な行動をしている業者でもある。上記の入札記録を見れば一目瞭然だが、ほとんどが途中辞退をしているのである。これは、違反ではないが、これだけ多いと不審に思う。何かの戦略なのかもしれないが、意味不明である。年中求人を募集しているので、人手不足で職場環境は厳しいと思う。
◆ビル管理業とは
ビル管理とは、業界ではビルメンテナンスとも呼び、ビルメンの名で通っている。ビルに限らず、マンションや駐車場なども含めた建物と用地管理を行う。管理内容としては、保守点検修理、設備交換、警備、清掃、消毒、害虫駆除などである。近年は派遣事業や図書館事業の部署を立ち上げ業務拡大をしている。
こうした、建物管理や清掃業を生業とする中小零細企業は、役所が発注する委託業務だけに狙いを絞り、受注業務の大部分が官公庁の委託業務であるケースが極めて多い。受注すれば、官公庁の確実に遂行される安定した仕事を獲得でき、それなりの利益も確実に得られるので、受注までのプロセスが難しい法人営業の様な手間もかからないからだ。民間企業だと、こうした中小零細企業は、せいぜい下請けの仕事しか獲得できず、自ら営業しても相手にされないケースが多い。官公庁の入札は、一定レベルの条件があれば平等に参加できるので、ハードルは高くない。技術点が導入されても、まだまだ、図書館業務の委託は価格重視の面が強い。
そして、入札価格を市場の健全な競争を阻害する不当レベルの最低価格まで下げて入札をする、俗に言うダンピングという行為を行う。これが、業界の価格破壊を起こしてしまう最大の要因だ。獲得してみて、旨味があれば次年度以降も同様の手段で入札し、旨味がなければ、あっけなく去るという手段を採る。かつては、ナカバヤシや埼玉福祉会が、国立大学の目録業務案件でこうした行為をしていた。無関係業種が図書館業界に参入してきたのは、こうした手段が通用する、まだまだパイの大きい業界だと狙いを付けたからだ。
◆厳しい現場の現状
近年の都立高校の民間委託の実情は、求人募集が年中掲載される程の人手不足で、現場に人員を配置できない業務不履行が相次ぎ、委託では禁止されている、教員が直接業務指示を出す偽装請負の不祥事などが報告されている。都立高校図書館では、東京都内の公立小中学校や他の自治体の学校図書館とは様相が異なる異様な事態が起きている。学校図書館で働きたい、できれば高校を希望するという方でも、都立高校図書館の求人への応募は考え直した方が良いと思う。
◆都立図書館の委託実情
最後にせっかくの機会なので、東京都が運営する公立図書館である、都立図書館の委託案件にも少し触れておきたい。こちらも、東京都財務部経理課が担当している。都立高校図書館と同様の入札を行うが、違う点として以下がある。
・1年契約の単年契約である。
・価格点だけで決め、一番安い金額で入札した業者が落札する。
そうなると、ハードルが低いので参入業者は桁違いに増殖し以下の様になる。詳細な入札経過は省略するが、2019年度・令和元年度~2020年度・令和2年度に入札参加した業者と業種、落札結果をまとめて書いておこうと思う。委託業務内容は閲覧、コピー、データ整理(目録など)だが、細かな内訳は省略する。情報源は東京都入札情報サービス。
▼入札案件数が多い順に掲載し、落札数は★で表記した。
9件
・オーディーエー(スポーツ施設管理)★★💀※
内1件💀は違反により入札指名停止処分となり、取り消しとなった。
・環境テクノ(ビル管理)★
8件
・TRC図書館流通センター(図書館サービス)
6件
・彩の国協同組合(複数のビル管理会社で構成された組合)★★
5件
・フィット協同組合(複数のビル管理会社で構成された組合)
4件
・埼玉福祉会(福祉サービス)★★★
・ナカバヤシ(製本,文具販売)★
・ナカバヤシ(製本,文具販売)★
・東神産業(警備)
3件
・和心(ビル管理)★
・秀光(ビル管理)
2件
・光管財(ビル管理)
・エースシステム(ビル管理)
・モスコム(清掃)
・日本通運(物流)★★
・ケーデーシ(アウトソーシング)★
・日本コンベンションサービス(国際会議サポート)
・ヒューマントラスト(派遣)
1件
・アイディ日本サービス(ビル管理)
・光サービス(不明)
※入札件数も多い、スポーツ施設管理業のオーディーエー株式会社だが、令和2年3月10日付けで指名停止になったことに伴い、東京都競争入札参加有資格者指名停止等措置要綱第3第4項の規定により、契約手続きへの参加が認められなくなってしまったそうだ。指名停止理由は不明だが、情けない話である。本業は、プール監視、受付、各種教室(水泳・ヨガ・ピラティス・フラダンス・ストレッチ・ワークショップ等)、建物清掃、警備、道路清掃等だそうだ。
東京都が業者に対し、専門的なノウハウと業務運営能力を保有しているかを詳細に判断できる書類審査とプレゼンをする精度の高い審査をしない限り、これらの傾向は続くと思う。今のところ、東京都が行う図書館委託案件入札は、ビル管理業者のドル箱収入源のカモになっているのが現実である。
【補足】
●東京都入札情報サービスの使い方
[PC版]
1. メニューの入札(見積)経過情報を選ぶ
2. 必須条件の「物品等」にチェックを入れる
右にある「営業種目の一覧表」をクリック
「+委託・その他」を選ぶ
「+135事務支援」⇒「08図書等整理業務」を選択
中央にある「選択>>」をクリックすると右枠に項目が表示される
下にある「選択」をクリック
3. 必須条件の「開札(見積)日別選択」で確認したい月にチェックを入れる
4. 一番下にある「検索」をクリック
5. 検索結果が表示されます
2. 必須条件の「物品等」にチェックを入れる
右にある「営業種目の一覧表」をクリック
「+委託・その他」を選ぶ
「+135事務支援」⇒「08図書等整理業務」を選択
中央にある「選択>>」をクリックすると右枠に項目が表示される
下にある「選択」をクリック
3. 必須条件の「開札(見積)日別選択」で確認したい月にチェックを入れる
4. 一番下にある「検索」をクリック
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[モバイル版]
1. メニューの入札(見積)経過情報を選ぶ
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「物品」を選択
3. 業種営業種目の選択
「委託・その他」を選択
「事務支援」を選択→決定
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「委託・その他」を選択
「事務支援」を選択→決定
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5. 取り扱い部署の選択
「財務局」と「教育庁」と「教育長(高等学校)」を選択
6. 検索
7. 検索結果が表示されます
※モバイル版は、業種営業種目を詳細に絞り込めないため、他業種の結果も反映され、検索結果が多くなります。PC版の利用をお奨めします。
この記事へのコメント
六
なるほど、あいつら(複数の)職員は、みんなアウトソーシング先の土建屋みたいなところの従業員なんだな、と納得していました。
ところが! 当該とんでもない職員のうち、少なくとも2人は、「都が正規雇用する常勤職員」であることが分かりました~~!!
東京都は、出来損ないを都立図書館に人事配置してるんですよ。「図書館」を捨ててるんんですよ。「日比谷」を千代田区に売り飛ばしたのも、根底は同じなんじゃないですかね。
「ひどい目」の詳細は省きます。全部挙げているとコロナが収束するころまでかかっちゃいそうなので。ご関心がおありでしたら、一部お教えします。
それではまた、縁がありましたら。六